住まい探しはハトマーク

株式会社瑞穂不動産/福島県須賀川市

地域を魅力的にする取り組み

<取材日:2024年4月3日>

 

行政と連携し、暮らす人が未来への
希望を分かち合えるまちづくりの実践

 

・中心市街地活性化のためにまちづくり会社を設立

・まちづくりのビジョンを策定する

・まちに必要な事業を行政に提案し、地域の活力を創出する

・空き家バンクの運営に本格的に取り組む

・須賀川を“いいまち”として次世代に引き継ぎたい

 


 

中心市街地活性化のためにまちづくり会社を設立

─御社の沿革と事業内容について教えてください

 私は福島県石川郡玉川村出身で、高校卒業後、東京で5年程証券会社に努めていましたが、地元で不動産業をしていた叔父から、「車を買ってやるから手伝わないか?」と言われて戻ってきました(笑)。そこに5年勤めて、瑞穂不動産を28歳の時に設立しました。

須賀川市のまちづくりについて語る大木社長

 須賀川の市場は、賃貸、開発、売買をそれぞれ専業でできるほど規模がありませんので基本はトータルで幅広くやっていますが、最初は競売からスタートしました。そのうち、商店街で廃業するという店主や地主から頼まれて物件を購入するようになり、いろいろ利活用をし始めました。いわば一人リノベーションまちづくりを始めたようなものです(笑)。

 

 競売物件も、建物としてまちのインフラであることには変わりはありません。使われていない建物に、もう一度新たな役割を与えたり機能を持たせることや、活用されないものを活用するということは、ある意味社会性を持つ仕事だと思います。

 きれいなものと新しいものはイコールではなく、古くてもきれいにしていれば、趣があっていいものになります。土地や建物が、本来どのように活用されると一番有効なのかということ、つまり不動産を最適化することを考えて事業を展開しています。

 

─中心市街地活性化等まちづくりに取り組まれたのは、どのような経緯からですか?

 2011年の東日本大震災では、このまちも震度6強の揺れがあって、農業用ため池が決壊するなど、震災関連死を含め12名の方が亡くなりました。さらに、市庁舎や福祉センターなど多くの行政機関が全壊してしまいましたので、都市計画の新しいプランを作らなくてはなりませんでした。そこで、市は商工会議所内に新生プランワーキング委員会を立ち上げ、私もそのメンバーの一人として参画しました。

 その委員会が中心となり、まちの中心市街地活性化が動き始めたのですが、その過程でまちづくり会社が必要だとなり、設立したのが「株式会社こぷろ須賀川」です。中心市街地活性化基本計画策定において、まちづくり会社があると国からの支援が手厚くなることもあり、私も同社副社長として震災復興に向け取り組んだのが始まりです。

 

─その一方で、自社でもまちづくり会社を設立されました

 新生プランをつくった後に市庁舎が完成し、「tette」という図書館や子育て支援、公民館機能が集まった複合施設もできました。ただ、施設を造ってそれで終わりではなく、これだけお金をかけたものを、みんなの居場所としていかに使い倒すかということが重要と考えました。

 また、青年会議所等で人づくりやまちづくりに関わりながら東日本大震災を経験して、これからは、自分の思うようにまちづくりをしたいという想いもありました。

 同時に、こぷろ須賀川は市の第三セクターまちづくり会社なので、ステークホルダーが多く、意思決定に時間が掛かりすぎるという歯がゆさも感じていました。そのようなことから、自社で過半を出資し、まちづくり会社「株式会社テダソチマ」を2019年に設立したのです。

 「テダソチマ」とは、逆から読むと“まちそだて”になります。これは須賀川市の都市計画策定においてアドバイスをいただいた弘前大学北原啓司教授(現特任教授)の研究「まち育て」に共感し、北原先生ご了承のもとに名付けたものです。

 

 

まちづくりのビジョンを策定する

まちづくりを推進するにあたり、自ら発起人となりビジョンを策定されました

エリアプラットフォームの体制図

 震災以降、このまちを次世代に“いいまち”として残したいという想いがあった点と、それまでまちづくりに取り組んできた中で、民間のスピーディーな事業展開を生かしつつ民間と行政がうまく連携することが重要であるという実感がありました。そのため、持続可能なまちづくりを推進するには行動指針をつくる必要があると考えました。そこで、私が発起人となり、2021年に「須賀川南部地区エリアプラットフォーム(以下「エリプラ」という。)」を立ち上げ、須賀川市中心市街地が持続的に発展するためのまちの将来像を示す、“未来ビジョン”を策定することにしたのです。

 ビジョン策定にあたっては、同年3月から会議を重ね、須賀川南部地区の歴史をひもときながら、まち歩きワークショップや事例研究等を通じまちの魅力を再認識しつつ、まちの課題を明らかにしていきました。そして、10年後のまちの将来像を描き、実現に向けてのロードマップを落とし込んだ未来ビジョン、『みちしるべ』を2022年3月に発表しました。 

 ビジョンは、須賀川の歴史・文化や魅力を次世代につなぎ、誰もが活き活きと輝ける未来へとつむぐ役割を担うために、“つなぐ・つむぐ”を基本理念とし、その理念を実現するために『10のみちしるべ』を掲げ、まちづくりを推進するという内容です。

 エリプラには、地元住民や地元企業などの中心市街地のまちづくりに関わる地域団体、大学の先生や学生、行政の職員など、多様なメンバーに参画してもらい、異なる立場からの視点でまちづくりについて意見交換をしてもらいました。

 その後、ビジョンの中で示した計画について進捗を確認し、適宜中間検証や見直しを図りながらまちづくりの活動を展開しているところです。

 

地域が目指すべき将来像“10のみちしるべ”

須賀川南部地区未来ビジョン『みちしるべ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まちに必要な事業を行政に提案し、地域の活力を創出する

「テダソチマ」の具体的な活動内容を教えてください。

 「テダソチマ」は、設立当初から、地域再生事業の担い手として公的位置づけを付与される都市再生推進法人を目指しており、設立した同年12月に須賀川市から福島県で初の指定を受けることができました。

 行政をサポートする地域のまちづくりの担い手として、空き家バンクの運営、低未利用地の利活用、空き店舗・遊休施設活用といった事業を展開する中で、いくつかの活用事例も生まれてきました。

①観光物産館「flatto」

 メインストリート沿いのギフトショップだった空き店舗を取得してリノベーションし、須賀川市の観光物産を扱うお店「flatto」を誘致しました。もともと観光物産を扱うところが、郊外の牡丹園という施設の中のお土産屋しかありませんでしたので、まちなかに賑わいをつくろうと観光物産館をもってきました。

 

②シェアスペース「STEPS」

 コロナ禍におけるリモートワークの普及・浸透によりテレワーク環境を必要とする人が増加したことから、県内外・首都圏等から人を呼び込むことを狙いとして、空き店舗をリノベーションしてシェアスペース「STEPS」をオープンしました。ここに、テダソチマの事務所も入居しています。

 

③サテライトオフィス「palette」

 かつて文具店だった空き家をリノベーションし、新たな交流の場としてイベント企画や情報発信、ワークスペースとして使えるサテライトオフィス「palette」を設置し、運営しています。

 

①flattoの外観

②テダソチマも入居するシェアスペースSTEPS

③tette、flattoの正面に位置するpalette

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④須賀川まちなかチャレンジプロジェクト

1坪店舗が集まるマチソダテベースが入る中島ビル

「マチソダテベース」募集チラシ

 新しい事業者がチャレンジできるまちを目指そうと、tetteに隣接する空きビル(中島ビル)の1階を改修し、新規出店者の挑戦を後押しするためのチャレンジショップ「マチソダテベース」を開設しました。同時に、出店者の情報やイベントの案内などの情報発信サイト「スカチャレ!」の制作・運営も行っています。

 「マチソダテベース」は、福岡市の吉原住宅(有)さんの一坪商店街を参考に、一辺約2mのキューブ状のブースを配置し、水道代や光熱費を含めて月額1万円の家賃設定で、起業を目指す人が気軽に挑戦できる場として整備しました。

 このように、徒歩圏内に、市民交流センター(tette)、観光物産館(flatto)、シェアスペース(STEPS)、イベントスペース(palette)、チャレンジショップ(マチソダテベース)といった施設を設けることで、複数の場所をまたぐ人の動き(まちなかの回遊性)を促したいと思っています。

 

 

 

⑤お試し居住用物件「Wonderful WADA」

建築のプロの指導の下、大学生がDIYでリノベーションする様子

 中心市街地以外でも空き家再生のプロジェクトに取り組んでいます。まちなかから車で約5分に位置する築52年の空き家を、大学生が間取りの案を出し、DIYでリノベーションしました。物件は“ペットと一緒に暮らせる家”をコンセプトに改修し、須賀川市に移住を希望する人向けのお試し居住用物件として活用しています。

 

 

 

等躬とうきゅう の庭

 地区内の重要な活動拠点であった「芭蕉記念館」が東日本大震災により被災し、その後2020年10月、松尾芭蕉が8日間滞在した俳友 ・相楽等躬さがらとうきゅう ゆかりの地に「風流のはじめ館」が再建されました。

 そこに隣接する民間空地を当社が広場として整備し、「等躬の庭」としてテダソチマが管理。この庭をより“開かれた場”とするため、広場の使用許可権を含めた管理協定を市と締結し、路地を活用した定期マーケット「Rojima」などのイベントや、人の集いの場として活用しています。

 

「Rojima」の様子

等躬の庭には災害時にも使用できるよう井戸が設置された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑦みんなのイバショソダテプロジェクト(旧母子生活支援施設のリノベーション)

ボランティアのプロジェクトメンバー

 須賀川市は高速交通体系に恵まれており、首都圏や仙台圏へのアクセスが容易であることから、テレワーカーや二地域居住者の利用が増えつつある一方で、低単価の滞在施設の整備が進んでいないのが現状です。そこで、須賀川市が所有し、3年前に廃止になっていた旧母子生活支援施設を入札により取得し、“みんなのイバショソダテプロジェクト”と題して、宿泊施設にリノベーションしました。このプロジェクトは、「須賀川で何かに挑戦したい」「学びたい」といった意欲を持つ起業家や学生のイバショをソダテる取り組みです。改修にあたっては、福島大学の学生を中心にボランティアを募集し、DIYを行いました。

 

 

 

 

─まちづくりを進めるにあたり、国の補助制度をうまく活用されています

メイン通りではウルトラマンがお出迎え

 みんなのイバショソダテプロジェクトは国土交通省の「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」として採択され、マチソダテベースは経済産業省の地域商業機能複合化推進事業、また、等躬の庭プロジェクトは国土交通省のまちなかウォーカブル推進事業の補助金を活用しました。

 これらは、市の財源に負担をかけないようにするということの他、国の補助金を活用したモデル事業として取り上げてもらうことで、須賀川市の知名度アップにも貢献できます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空き家バンクの運営に本格的に取り組む

─空き家バンクの運営受託も始めました

須賀川市空き家バンク「イエソダテ」

須賀川市では、空き家数は2,960 戸と、5 年に比べて 1.3 倍以上に増加し、空き家率は10.0%です※1。市も「空家等対策計画」を策定し、空き家問題に取り組んでいます。

福島県は59の市町村がありますが、郡山や白河を除いて役所の内部に空き家バンクがあり、成功している事例が少ないと感じていました。行政は3年に1回程度の頻度で担当者が異動してしまいます。そうすると、そのとき担当した職員の熱量によってうまくいくかどうかの差が出てくるので、外部委託した方がいいのではないかと行政側から提案がありました。そこで、行政をサポートしたいという思いで応募したところ受託することができ、2021年4月から須賀川市空き家バンク「イエソダテ」を運営しています。

 

─空き家バンクの運用状況を教えてください。

 空き家バンクの運営当初は、利活用、買い取り、サブリースなどの方法で物件を流通させ、ビジネスとして成り立たせることに焦点をおいていましたが、空き家バンクの運用ルール上、既存不適格の物件、市街化調整区域の物件、農家住宅等は掲載できないなど、掲載要件のハードルがやや高いために、物件が少ないのが現状です。そこで、これからは、空き家の発生抑止に焦点をあてて運営していこうと考えています。行政書士等と連携して家族信託などの方法を取り入れたり、東京で空き家等に関するイベントなどがあれば、積極的に参加してPRするようにしています。さらに、士業とも連携して相談者の悩みにワンストップで対応できるような相談窓口の設置も今年から始めるつもりです。

 空き家バンクの運営に加え、2022年からお試し居住運営管理業務を受託しています。これは、無料で一定期間滞在用の住宅に住み、その地域の気候、文化、慣習などを実際に体験できる制度です。移住や二拠点生活を検討している方にとっては気軽にスタートできる魅力的な制度なので、こちらもPRしていきたいと思います。

 

─所有者不明土地利用円滑化等推進法人の立ち上げも検討されています

 やはり、所有者が不明な土地があるとまちづくりの阻害要因になるので、空家予防対策の一環として指定を受けたいと考えています。既に申請の準備は整っており、現在は須賀川市の公募を待っている状況です。

 

 

須賀川を“いいまち”として次世代に引き継ぎたい

─今後の展望について教えてください

 テダソチマの設立から5年間で急速に活動内容を増やしてきたので、組織の強化と省力化が必要です。さらに、施設を利活用する上で、マネタイズ方法が課題になってきます。そこで検討しているのがDX等に対応するためのデジタルノマド※2の受け入れです。それ以外にも、インバウンドの受け入れ、エリアプラットフォームの広域連携や情報発信も強化していきたいと思っています。

 最近は、これまでの取り組み等を評価いただいて、講師として話をする機会をいただくようになりました。須賀川市で蓄積した私のノウハウを活かせるのであれば、今後は須賀川市外にも展開して、中心市街地活性化の方法を全国の仲間と共有し、一緒に進めていきたいと考えています。 

 そして、まちの未来へのビジョンを多くの人と共有し、この想いを行動に変えて、未来を担う子どもたちに、須賀川を“いいまち”としてつないでいきたいと思います。

 

 

※1 2018年住宅土地統計調査

※2 場所に縛られることなく、日本国内や世界中を旅しながら、IT技術を活用して自分のペースで働く人のこと

 


 

大木和彦 氏

1967年、福島県石川郡玉川村生まれ。高校卒業後、証券会社勤務を経て、叔父の不動産会社に勤務し、1996年に株式会社瑞穂不動産を設立。2016年に(有)カミーナコミュニティサービス代表取締役就任、2019年には(株)テダソチマを設立し、代表取締役に就任。そのほか須賀川商工会議所常議員、須賀川青年会議所理事長や福島県宅地建物取引協会理事等も歴任。

 

 

 

 

株式会社瑞穂不動産

代表者:大木和彦

所在地:福島県須賀川市本町84番地2

電 話:0248-73-0324

事業概要:1996年11月設立。須賀川市を中心に不動産賃貸、管理、売買を展開。2019年には、まちづくり会社「株式会社テダソチマ」を設立し、都市再生推進法人で須賀川市初の指定を受け、須賀川市の活性化に取り組む。