マークスライフ株式会社/東京都中央区
顧客志向の企業経営の実践
<取材日:2026年8月20日>
「買い手の見つかりにくい不動産」
を流通させる
——マークスライフ株式会社が挑む、事故物件と空き家の新たな価値創造
事業の起点:「解決できなかった」への違和感
─成仏不動産を立ち上げた経緯を教えて下さい
2019年4月に立ち上げました。当時は今よりも、いわゆる「事故物件」に対する偏見がとても強かったんです。実際に相談を受けても、答えられない——困り事を解決しようと思って作った会社にもかかわらず、解決ができないことに違和感というか、課題感を感じたのがきっかけです。
その時に私が立てた仮説は、事故物件というのも結局、過去どこかでうまく流通していて、何らかの形で再生できているということです。そう考えると、一定数いる「抵抗のない人」にしっかりとつなぐことができれば、取引の流通がしっかりとできて、価値の透明化ができるんじゃないか。この2つの視点から立ち上げました。
ネーミングに込めた思想:「成仏」の意味
─「成仏不動産」という名前にはどのような思いが込められているのでしょうか
社員から「いわく付き不動産」など複数の候補が挙がりましたが、物件の価値を上げるためにやろうとしているのに、下げる言葉をつけたらダメだなと思ったんです。そう考えた時に、人が成仏するのではなくて、買い手の見つかりづらい不動産が、市場に流通し、次に住まう方へ渡ることは輪廻転生のように、不動産としての成仏になるという意味を込めて——「成仏不動産」とつけました。「成仏」とは、決してネガティブな意味ではないんです。
事業モデルの変遷:ポータルサイトから総合不動産事業へ
─当初はポータルサイトとして構想されたと伺っていますが、現在は買取再販・売買仲介も手がけられていますね
当初は、事故物件だけのマーケットを作ることで、事故物件に抵抗のない人、事故物件が平気な人が集まってくるだろうという想定の下に始めました。当初は買主様によったサービスだったのですが、事故物件を抱えて困っている売主様にもっと寄り添わなければいけないと思い、自社での買取・再販や売買仲介へとサービスをシフトしていきました。今は成約ベースで事故物件の比率が約11〜12%ですね。
物件を買い取るケースも多いのですがその場合は、リノベーションせずに投資家や不動産事業者へ早期に売却するケースもあります。最近は投資家ご自身でDIYをされるケースも多いため、物件の状態や用途に応じてリノベーションの必要性を見極めながら再販を行っています。
国交省ガイドラインがもたらした変化
─国土交通省の人の死の告知ガイドラインは、事業にどのような影響を与えましたか
ガイドラインはすごく効果がありました。おかげで安心して取り組むことができるようになりました。 ガイドラインができる前は、事故物件であることを伝えるか伝えないかのラインを誰に聞いていいのかわからない状況だったんです。誰に聞いてもバラバラだったんです。私は当初、全部話すべきじゃないかと思っていたのですが、実際ガイドラインができて運用される姿を見ていく中で、わざわざ出さなくてもいいこともある。出すことによって、ご家族様がえぐられるような思いがあったり、心に傷がついたりする場合もあると思います。ガイドラインによると、「気になる方は質問してください」という仕組みになったと思うんですが、これがとても秀逸だと思います。
─一方で、まだ課題も残されているようですね
そうですね。例えば「特殊清掃」とはどこまでのことを言うのか。通常の清掃業者による清掃と、特殊清掃の境目も際どかったりします。隣接物件での事故の告知要否など、グレーゾーンがまだ残っていると感じています。売買についてはまだ基準が不十分な点もあるため、さらなる明確化を検討いただきたいと思います 。
社会認識の変化:「事故物件に抵抗ない」と答える人が増えた
─創業当初と比べて、一般の方の受け止め方に変化はありますか
「私、抵抗ないです」という方、結構いらっしゃると思います。特に新卒の採用の時に、学生の前で話す際に聞いてみると、3割以上が「私は抵抗ないです」と答えています。今までは、百人いたら嫌だという層と、全く抵抗がないという層と、そもそも考えたことがない層がいっぱいいたと思うんですが、これが私どものような事業者の取り組みや、マスコミ等の影響もあってこれまであまり意識していなかった人が意識し始めた結果、抵抗がない人が増えたような印象はありますね。掘り起こしができてきたということだと思います。
若い方のほうが抵抗のない方は多い気がします。住居費にお金をかけたくないという意識も影響しているのかもしれません。事故物件に住むことによって住居費が下がって、その分食費や旅行費に充てられる。そういう発想なのかなと想像して居います。
企業理念に貫かれる「配慮」と「正当な扱い」
─所有者やご家族への配慮、購入者への対応など、工夫されていることを教えてください
所有者の方、およびそのご家族の方への配慮はすごく大切にしています。例えばご自宅にお邪魔する時に、場合によっては近隣の方に不動産の査定だと分からないよう、私服でお邪魔することもあります。また、お仏壇があるお宅では、まず手を合わせるようにしています。
また、社内では「事故物件」という言葉を禁止しています。お客様に対しても「事故物件」という言葉を使った瞬間にダメだなと思っていて、しっかり一つの不動産として接するようにしています。 特別視しないというのも意識していて、人が亡くなるのは当たり前のことで、自然なことです。むしろ自宅で亡くなることができた人っていうのは、ある意味幸せな部分もあるのではないかと思います。購入者に対しては、伝えるべき事実を伝えて、判断をしてもらう。お願いすることもなく、一生懸命勧めることもなく、単純に事実を伝えるということを意識しています。
─事故物件であることによる値引き幅を明示することはあるのでしょうか
最初はしようとしたんですが、難しくて断念しました。事故物件と言われているものがマイナスなんだというものを表に出しすぎると、レッテルみたいなものになりそうで。社内の事業計画では「告知なし時の想定価格」みたいなものを一応つけて、そこからどれだけ下がるだろうということを想定して計画していて、そのデータをどんどん集めていったりしています。
0円空き家管理サービス:発想の転換
─0円空き家管理サービスについてお聞かせください。どのような経緯で生まれたのでしょうか
弊社はご葬儀会社様など、いろんな企業様と提携しているのですが、多くの方がすぐ売りたいではなくて、一旦そのままにされるんですね。当たり前かもしれませんが、今まで住んでいた実家を、所有されているご家族が亡くなったらすぐに売却を決意するのは中々難しいと思います。数年間放置されてそのまま空き家になってしまうケースが多い中で、「管理費用が0円なら管理したい」というニーズに着目しました。しかし、管理する側にとっても負担が大きいのが現状です。そこで、「この負担をゼロにするにはどうすればいいか」という発想から生まれたのが本サービスです。
─具体的にはどのような仕組みでしょうか
空き家の駐車場を月極で貸し出して、その収益で管理費用を賄います。戸建ては駐車場がついていることが多いですし、ご高齢者の免許返納で家の駐車場が空いているケースもあります。その駐車場を貸し出してその賃料で、換気、通水、臨時駆けつけなどの空き家管理費用を賄えれば、みんながウィンウィンになる。紹介企業様には将来的な売却成立時にご紹介料をお支払いする仕組みにしています。
─課題やリスクはありますか
致命的なマイナス要点があって、駐車場を貸し出すと空き家の特例(3,000万円控除等)に当てはまらなくなってしまうんです。利益を得ているわけではないにもかかわらず、管理の一環として駐車場を貸し出すだけで、「貸し付けている」とみなされてしまいます。商業目的で行っているものではないのであれば、対象から外していただきたいなと思っています。
「事故物件」に代わる新たな呼称の必要性
─言葉の問題についても重視されているそうですね
事故物件に代わる言葉を作って、広めることができればと思っています。一社の民間企業が、ある日読み方を変えて発信しても検索すらされませんし、難しいと感じています。社内では「成仏物件」と呼んだりしているんですが、もうちょっと適切な言葉がないかと思案しています。「グリーン物件」などの案も検討しています。重すぎるとイメージが悪いままですし、きれいすぎたら全く伝わらないと思います。国交省主導で普及していただくのが理想ではあります。
地域連携ネットワーク:中小宅建業者との共創
─全国からの相談増加に対して、どのように対応されているのでしょうか
全国原則断らないというスタンスでやっているのですが、知らないエリアに行きますから、地元の事業者様にまず話を聞きます。1社ではわからなくても、数社聞けばわかったりそのエリアの需要を想像できたりします。どういったものが使えるのか、どこを深堀りしていくのか——地元の専門家、例えば山林専門ですとか、古民家専門ですみたいな専門家があればあるほど、空き家再生がしやすくなります。弊社からご相談して情報をお渡しする側になれる。それを「地域連携店」という形で連携先を作っていくことを考えています。全国47都道府県に支店を出していきたいという思いもあって、その時には自治体ともどんどん連携していきたいですね。
企業ビジョン:「日本に恩返ししたい」
─最後に、実現したいビジョンについてお聞かせください
自分の中では、日本で生まれて日本で育ったから、日本に恩返しをしたいというのが大前提にあります。空き家を減らしていく、住むだけではなく、活用していくことも考えています。日本特有の景色の美しさや食べ物のおいしさといった、その地域ならではの価値が、少しずつ失われているように感じています。単に「住むのに便利かどうか」だけではなく、これからも残していかなければならない価値を守るためにも、空き家問題の解決や地域共創に取り組んでいきたいと考えています。これは一社だけでできるものじゃありませんので、いろんな企業様がどんどん乗り出して、みんなが意識して残すべき文化の価値を感じ、発信するようなことができたらいいなと思いますね。
流通しにくい不動産に新たな価値を見出し、地域の課題を地域連携で解きほぐす。マークスライフ株式会社・成仏不動産の取り組みは、不動産業の枠を超えた社会課題解決のモデルケースとして、今後の展開が注目される。
花原 浩二氏
阪神淡路大震災を経験したことから、地震に負けない家づくりをしたいと新卒で大手ハウスメーカーに入社後、分譲住宅営業に従事し、横浜支社では営業所長を歴任。父の死をきっかけに「空き家問題の解決をしたい」という想いを強め、2016年にNIKKEI MARKS(現:マークスライフ株式会社)を創業。 「世のために。人のために。」を企業理念に掲げ、事故物件を扱う「成仏不動産」、実家にまつわる相談窓口「じつまど」などのサービスを通じて、不動産の買取再販、仲介事業を展開。 現在は他業種や自治体との連携を拡大し、不動産の枠を超え総合生活支援企業として社会課題の解決に取り組んでいる。

マークスライフ株式会社
会社概要
2016年株式会社NIKKEI MARKSとして創業。
2019年4月に事故物件専門のマーケットプレイス「成仏不動産」を立ち上げた。
現在は買取・仲介も手がける総合的な不動産事業を展開し、0円空き家管理サービスなど、社会課題の解決に直結する事業を次々と構想・実現している。




















