
工藤 公康
くどう きみやす●1963年、愛知県生まれ。1982年名古屋電気(現・愛工大名電)を卒業後、西武に入団。以降、福岡ダイエー、読売、横浜に在籍し、14度のリーグ優勝、11度の日本一に輝き、「優勝請負人」と呼ばれる。最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回、通算224勝を挙げる。正力松太郎賞を歴代最多に並ぶ5回受賞、2016年には野球殿堂入り。2015年から福岡ソフトバンクの監督に就任。2021年に退任までの7年間で5度の日本シリーズを制覇。2020年に筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻を修了。体育学修士取得。
プロ野球の監督は
中間管理職である
組織マネジメントには、
正解の方法はありません。
けれども、失敗したときには、
失敗する理由が必ずあります。
本書を書くことになったきっかけを教えてください。
もともとは「監督は偉い立場にいる人ではないんですか?」と聞かれて、私は「そんなことはないですよ。監督の上には球団社長がいて、球団代表、ゼネラルマネージャー(GM)という役職の人もいる。チーム内における監督の立場は、一般企業で言うところの部長クラス、つまり中間管理職ではないでしょうか」と答えたことをきっかけにして本書の企画が持ち上がりました。
今回の著書のタイトルに中間管理職という言葉が入っています。具体的にはどういうケースのときに、「プロ野球の監督は中間管理職である」とお考えでしたか?
たとえばあるレギュラーの選手は、私がソフトバンクの監督に就任した直後から、「一軍の試合で起用してみたい」と考えていました。けれども球団からは、「別の選手を使ってほしい」という要望が出ていました。こうなると、私の主張を一方的に押しつけることはできません。球団からの要望をいったん受け入れ、その選手を一軍の試合で起用してみる。それで結果がともなわなければ、私が起用したいと思っていた選手を球団側に提案して、試合に出してみるといったことですね。
物事を進めていく際には、私の一存で決めることができず、常に上との判断を仰いでいく。まさに私の立場は中間管理職であるんだなと実感しながら、7年間、監督の任務にあたっていたと思います。
監督として、チームの全選手の能力を把握することで、心がけていたことはありますか。
ソフトバンクは一軍から三軍までありますが、春と秋のキャンプでは、できるだけすべての選手を見るようにしていました。たとえば実績のない三軍の選手の場合、長所と短所はどこなのか、コーチに聞いて自分の目でも確かめますし、課題があれば、シーズン中にどう改善されているのか、二軍や三軍の試合の映像を通してチェックすることもしていました。
よく野球界では「ソフトバンクは競争が激しく、三軍から新しい選手が次々出てくる」と言われています。監督がすべての選手の能力を把握し、1人ひとりの選手の成長を球団スタッフと意見交換しながら見守り、辛抱強く試合で起用し続けていったことも、その要因の1つではないかと考えています。
ソフトバンクの監督時代、組織として「このままではいけない」と危機感を持たれたことはありましたか。
2015年シーズンにパ・リーグ優勝と日本シリーズでも日本一になりました。けれども翌16年はシーズン終盤まで首位にいながら、最後の最後で日本ハムに優勝をさらわれた。このときまで私は、作戦面から選手のコンディショニングに関することまで、各部門のコーチたちにあれこれ指示を出していたことが多かったのですが、その結果、コーチたちが「指示待ち人間」になってしまったことに気がついたのです。
それ以降は、首脳陣に対して一方的に指示を出すのではなく、スタメンを決めるにしても私の案だけで進めていたやり方を改めて、コーチたちにも案を提出してもらうようにした。すると、コーチたちの案を採用することで彼らも積極的になり、選手たちの状態をより把握できるようになっていきました。そうやって少しずつコミュニケーションを深めていけたことが、その後の4回の日本一につながっていったのではないかと思います。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
選手を起用していく、あるいは組織をまとめていくマネジメントの部分において、「こうすれば必ずうまくいく」という、正解の方法はありません。けれども、失敗したときには、失敗する理由が必ずあります。そこから「何がいけなかったのか」「どうすれば事態を打開できるのか」の正解を導き出していけばいいのです。
1人でこもって考え込んだりせずに、みんなで知恵を出し合いながら、組織をよりよい方向に持っていく方法にトライしてみるのもいいと思います。(取材・文/編集部)

『プロ野球の監督は中間管理職である』
日本能率協会マネジメントセンター
1,760円(税込)
選手として14回のリーグ優勝、11回の日本一。監督として5度の日本一とAクラス6回、日本シリーズ12連勝と、選手・監督の両方で脅威の数字を残し続けた著者が、常にトップを走り、人を育て続ける「自立型人間の育て方」と「常勝組織の作り方」を説く。監督としての常勝の秘訣だけでなく、「一軍監督=中間管理職」と位置づけ、マネジメントの秘訣を本書で解き明かしている。