一般消費者向け住まいのセミナー 開催レポート 安心・安全な住まいのあり方とは

第1部 特別講演

~震災と津波を超えて~ 日本人はいかに住まうべきか?
特別講師:養老孟司 氏

養老孟司 氏

養老孟司
解剖学者、東京大学名誉教授

「いかに住まうべきか」。これは、私たちそれぞれが個々に考え、実践すべきものであると考えます。

実際、現代の日本の住宅はさまざまな素材を用いつくられており、それが多様性に富んだ街並みを形成しています。個々人が好きなように住んでいるということの表れと言えるでしょう。

都市計画をまとめる難しさを経験

しかし、江戸時代の横浜の街並みを写真などで見ると、白壁、瓦屋根などで家の見た目がきれいに揃っており、街並みに統一が取れています。これは、考えてみれば当時は材料が限られていたので、家をつくると必然的に他と均一なものができたのでしょう。

30年ほど前、鎌倉の土地活用委員での「若宮大路の建物の色を統一しよう」という計画に参加したことがあります。しかし、多くの賛同をいただいたのですが、結局実現はしませんでした。冬と夏とで大きく変わる景色、いつにでも合う色というのが定まらない。また「信号が見えなくなる」などの安全性の問題を考慮し、公安委員会に対して許認可を得る部分で難しいところがある…。都市計画には素人でありながら、この経験から「街を考える」ということは非常にややこしいものであると思いました。

住まい方で大事なのは生き方

住まい方を考える上では、『建物』というハードの側面と、そしてもっと大切な『生き方』というソフトの面でも考えをめぐらすことが重要です。東大の松井孝典氏は著作『レンタルの思想』の中で、「物は所有せずともレンタルで足りる、レンタルの方が安全ではないか」ということをおっしゃっていました。確かに、震災やエネルギー問題など、何が起こるかわからない現代の状況を考えますと、そのときどきで都合のいい環境を選んで暮らすことの方がより機能的なのではないか、そういう生き方も時代を考えると有効なのではないかとも思います。

『方丈記』の合理的「住まい」

東北在住の僧侶にして作家である玄侑宗久氏は、震災を経て『方丈記』について書かれています。また堀田善衛氏は東京大空襲の経験から『方丈記』をモチーフにした作品を書いておられます。なにか大きな災害に遭った時に日本人がどういう考えを持つかというのは『方丈記』に書かれているものなのだと感じました。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という哲学は、日本人の根底に存在するものなのではないでしょうか。そして、「世の中にある人もすみかも、またかくのごとし」と。

わたしは40代で家を建てて退職金で完済しました。サラリーマンが住まいを取得する典型的な例なのですが、このように一代ごとに家をつくっては壊し、使い捨てのようにすることはたいへん無駄なことであると感じてはおります。

そこで、『方丈記』の中で鴨長明が暮らしていた住まいとは、現代で言うと「ダンボールハウス」です。簡単に畳めて移動が自由、好きなときに好きなところへ行ける、非常に合理的な住まい。現代でそのような生活をしている人は、一般的に「ホームレス」と言われておりますが、研究者の中では「都市型狩猟採集生活」と表現されることもあるようです。一代ごとに立派な家を建てる無駄をしなくても、都市での生活は、ダンボールハウスくらいの装備で足りるのかもしれません。そしてダンボールハウスは寒さにとても強く、中にいる自分の熱のみで十分な暖をとれ、エネルギー効率を考える上でも性能の良いものです。

レポート

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